2026年8月6日
国立大学法人筑波大学
株式会社イシダテック
国立大学法人東京海洋大学
冷凍カツオの重量を3Dカメラを用いて非接触・高精度に推計
3Dカメラを用いてコンベア上の冷凍カツオの形状を立体的に計測し、機械学習で体重を推定する手法を開発しました。従来の全長計測に加え、非接触では困難だった「体の厚み(幅)」を考慮することで、市場の熟練者による選別を上回る精度での体重推定とサイズ分けが可能となりました。
水産資源を守り、おいしい魚を食卓に届けるには、魚の大きさや重さを正確に知ることが大切です。しかし、大量の魚を一つずつ手作業で測るのは非常に大変な作業で、測る人によって結果にばらつきが出てしまうという問題もありました。カメラを用いて2次元画像解析を行う手法もありますが、特に遠洋漁業で捕れるカツオは船の上で完全に凍らせるため、表面についた霜が光を強く反射してしまい、形を正確に捉えるのが難しいという課題がありました。
本研究では、光の反射を利用して物との距離を測る方式の3Dカメラ(ToFカメラ)を使い、コンベア上を高速で流れる冷凍カツオを立体的にスキャンするシステムを開発しました。このカメラは赤外線を使って、魚の表面の形を無数の点の集まりとして捉えるため、霜がついたカツオでもその凸凹を精密に再現できます。得られた立体データからは、魚の長さや高さだけでなく、これまではカメラで測ることが難しかった「体の厚み(どれだけ太っているか)」の情報を正確に抽出することに成功しました。この情報は、魚の重さを正確に予測するために重要です。
この立体的なデータとAI(機械学習)を組み合わせ、魚に一切触れることなく体重を推定することに成功しました。その精度は、市場で働く熟練のプロの目利きによる重さの判定結果を上回りました。この技術が実用化されれば、漁船や食品工場での過酷な手作業が自動化され、より効率的かつ正確に海の資源を管理できると期待されます。
< 研究代表者 >
筑波大学 システム情報系
善甫 啓一 准教授
株式会社イシダテック
石田 尚 代表取締役
東京海洋大学 学術研究院 海洋生物資源学部門
宮本 隆典 助教
研究の背景
水産資源の管理や加工流通において、魚の体長や体重の把握は不可欠です。しかし、現状は手作業による計測が主流で、多大な労力と時間がかかり、計測者によるばらつきも大きな課題となっています。特に冷凍カツオは流通量が多い上、表面の霜による反射光の影響のため、従来の2次元画像解析が困難でした。また、これまでの平面画像では体重と相関の強い「体幅(厚み)」の情報を非接触で得ることが難しく、正確な体重推定には限界がありました。本研究は、こうした課題を解決する、非接触かつ高精度な自動計測システムの実現を目指しました。
研究内容と成果
本研究では、ToF(Time-of-Flight)方式の3Dカメラ注1)と機械学習の一種である「ランダムフォレスト」注2)を組み合わせた、新しい非接触体重推定システムを構築しました。このシステムを用いて、焼津港に水揚げされた冷凍カツオ207個体を対象に、実際のコンベア上での計測実験を実施し、3Dカメラで取得した立体的な点群データ注3)から、尾叉長注4)(長さ)、体高(高さ)、およびこれまで非接触計測が困難だった体幅(厚み)の3要素を抽出しました。
実験の結果、3Dデータから得られた各寸法は実測値と高い一致を示しました。体重7kgまでの個体に対し、平均絶対誤差0.20kgという高い精度での推定を達成し、特に、尾叉長と体高、体幅の情報を組み合わせることで、体重推定の精度が飛躍的に向上することが明らかになりました。さらに、左右両面からの計測データを統合し平均化する手法により、計測時の魚体の傾きによる誤差を最小限に抑え、推定の安定性を高めることに成功しました(図1)。
このシステムによる推定体重に基づく市場階級(サイズ分け)の判定一致率は80.7%に達し、熟練の選別員による判定(73.9%)を上回る性能を示しました(図2)。本成果は、霜などの悪条件下にある冷凍魚でも、3D点群データを用いて高精度な体重推定が可能であることを世界で初めて実証したものです。
今後の展開
本研究は手法の有効性を示す「概念実証」の段階であり、今後はAIを用いた完全自動での特徴抽出アルゴリズムを開発し、コンベアを止めないリアルタイム計測の実現を目指します。また、複数個体の同時計測や他魚種への応用を進め、将来的には漁船上から加工場、小売までをデジタルデータでつなぎ、水産業全体のDX(デジタルトランスフォーメーション)と持続可能性の向上を後押ししていきます。
こうしたデジタルデータを蓄積することは、将来的な資源保護のための厳密な漁獲量管理や、消費者への透明性の高い情報提供にも寄与します。
< 参考図 >
図1 非接触魚体計測・体重推定システムの3段階ワークフロー
第一段階の「3D計測」では、コンベア上の冷凍カツオに対し、ToFカメラから赤外線を照射して立体的な点群データを自動取得する。
第二段階の「寸法計測」では、得られた3Dデータから尾叉長(長さ)、体高(高さ)に加え、従来の2次元計測では取得が困難であった体幅(厚み)の3つのパラメータを抽出する。
第三段階の「体重推定」では、これらの寸法データをAIに入力し、魚体の立体形状に基づいた体重算出を行う。
3次元的なアプローチにより、厚みの情報を独立した変数として活用でき、推定精度が飛躍的に向上した。
図2 体重区分判定結果の比較
実際の体重区分に対し、人間とAIの判定結果がどれだけ一致したかを可視化したデータ
(a)実測値と市場の専門家(熟練選別員)による判定の比較:熟練選別員による目視判定の結果。全体一致率は73.9%。
(b)実測値と本システム(AI)による推定値の比較:3DカメラとAIを用いた本システムの判定結果。全体一致率は80.7%を記録。
< 用語解説 >
- ToF (Time-of-Flight) カメラ
赤外線などの光を対象物に向けて照射し、それが反射して戻ってくるまでの時間(飛行時間)を測定することで、物体との距離を精密に計測するカメラ。 - ランダムフォレスト (Random Forest)
機械学習のアルゴリズムの一種で、複数の「決定木(データの条件分岐モデル)」を作成し、それらの予測結果を統合(多数決や平均)することで、高い精度と安定性を得る手法。 - 3D点群(3次元点群データ)
3Dカメラによってスキャンされた、物体の表面形状を表現する無数の点の集合体。 - 尾叉長(びさちょう)
魚の体長を計測する際の基準の一つで、口の先端(吻端)から、尾びれの中央にある「くぼみ」の部分までの直線距離。
< 研究資金 >
本研究は、公益財団法人静岡県産業振興財団による「令和7年度次世代産業関連プロジェクト革新的技術創造助成」の支援を受けて実施されました。また本研究は、筑波大学および東京海洋大学と株式会社イシダテックとの共同研究契約に基づいて行われました。
< 掲載論文 >
| 題 名 | Non-contact 3D morphometrics and weight estimation of frozen skipjack tuna using time-of-flight point clouds on a conveyor belt (コンベア上のToF点群を用いた冷凍カツオの非接触3D形態計測および体重推定) |
|---|---|
| 著者名 | Ryusuke Miyamoto1, Eisuke Nakata2, Yusuke Suzuki2, Naoto Ienaga3, Hisashi Ishida2, Keiichi Zempo3 1 東京海洋大学 2 株式会社イシダテック 3 筑波大学 システム情報系 |
| 掲載誌 | Fisheries Research |
| 掲載日 | 2026年7月18日 |
| DOI | 10.1016/j.fishres.2026.107820 |
< 問合わせ先 >
【研究に関すること】
善甫 啓一(ぜんぽ けいいち)
筑波大学システム情報系 知能機能工学域 准教授
TEL: 029-853-5338
Email: xperlab@g.iit.tsukuba.ac.jp
URL: http://www.xpercept.aclab.esys.tsukuba.ac.jp
【取材・報道に関すること】
筑波大学広報局
TEL: 029-853-2040
E-mail: kohositu@un.tsukuba.ac.jp
株式会社イシダテック
TEL: 054-628-6161
E-mail: contact@ishida-tec.co.jp
東京海洋大学総務課広報係
TEL: 03-5463-1609
E-mail: so-koho@o.kaiyodai.ac.jp